きみづかエイチアールイー株式会社 / 作り手の現場#003
当店で扱っているアップルウォッチの充電皿『KINERGY』を作っているのは岩手県花巻市のきみづかエイチアールイー株式会社さん。木皿の製作も行う企業さんです。
ろくろ成形を得意とし、美しい木目を活かした耐久性の高い食器は盛岡発祥の有名ハンバーグレストランにて40年以上も前から採用され、現在もなお作り続けられています。
その木皿が生まれる工房を訪ねてきましたので、その模様をお届けしたいと思います。
工房見学
工房には沢山の工作機械が並びます。
まだ加工前の木材。板材の木材から器へと加工が進みます。
粗挽き
お皿を作る為に、まずはおおまかに形状を丸く、内側も荒く削り込みます。この時、沢山の木片が出ます。粗挽き後の木材を『木地(きじ)』と呼ぶそうです。
粗挽きで出たこの木片はこの後の燻製作業で使われます。
燻煙乾燥
粗挽きの後の木地は2階の倉庫に積まれ自然乾燥。
のちに工房側の燻煙乾燥炉で燻しながら木材中の水分をさらに調整し、木の狂いをおさえます。この燻製炉を稼働しているのは全国でも稀有な事なんだそうです。
戻し
燻し後の木地は再び工房の2階にある倉庫に運ばれます。燻された木地は黒くすすの付いた色に。規則正しく積まれた器になる前の木材、綺麗ですよね。この状態で約半年ほどの時間をかけて木地を休ませます。
この期間置く事により、適度な水分量に馴染み一層木の狂いが落ち着くのだそうです。
積まれたまま燻されているので底面には重ねた時の独特の模様が。野球ボールみたいです。
ちなみに木取りをする際には必ず芯の部分は避けて使うそうです。木は芯から割れるとのこと。
仕上げ挽き
いよいよ仕上げ挽き。自作の鉋(かんな)を少しずつ当てがいお皿の形に削り出していきます。裏表両面を同時に削り出します。
削り節はとても薄く、紙よりも薄いのだとか。
ペーパーでのヤスリがけもこのタイミングで。細かな粉塵が舞います。
削り出されたばかりの器。肌理は滑らかです。触れてみるとまだヤスリの摩擦熱が残りホカホカとしています。
器の形状に合わせて何本もの鉋を用意。
工房に鍛治を出来る部屋もあり、そこで鉋も自作されています。
刃物部分と支柱分の金属は違うとのこと。刃物になる部分はより硬い金属が使われています。
そもそも市販品にこのようなろくろ用の鉋は無いとの事。形状により欲しい鉋の種類は違うそうでその都度作られるそうです。
手挽きろくろ
仕上げ挽きで取りきれなかった部分は手挽きろくろで仕上げます。
先ほどのろくろでは挟み込むように固定していましたが、このろくろは木で作った治具で内側から固定する方式です。
鉋を当てると削り節が舞います。
底面にも削りが入り、お皿の形が完成です。
KINERGYを作る時の為の小さな治具。
作りたいサイズの製品によって治具も作り変えるそうです。
着色、塗装
着色作業を行い、その後ウレタン塗装を施します。
ウレタン塗装も専用の塗装台に乗せ回転させながらスプレーガンで吹き付けます。
この手際が素晴らしく一枚のお皿の塗装にかかる時間は数十秒程度。
テンポよく塗装作業が進んでいきます。
何度か重ね塗りの塗装、研磨を繰り返したのちについにお皿が完成です。
1日に削れるお皿は30〜40個ほど、塗装は300〜350個ほどとの事。
KINERGYもこの工程を経て作られています
当店で扱っているアップルウォッチ充電器皿『KINERGY』も基本的にはこのろくろ作業を経て製品化されています。塗装はオイル仕上げですので、お皿製作との大きな違いは塗装の部分だけでしょうか。
おわりに
きみづかエイチアールイー株式会社さんの工房見学の様子をお伝えしました。
荒々しい木材から肌理の細かな美しい器へと変わっていく過程をお楽しみ頂けていたら幸いです。
こうして工房見学をさせて頂く事で改めて気がつくのですが、基本的に世の中のほとんどの製品は誰かの手作業で作れらていること。インスタントな物に慣れてしまってどこかオートメーションに、自然発生的に物がそこにあるような気がしますがそんな事はもちろんなく。全ては誰かのアイディアと手作業なのだなと。
この作り手の現場というシリーズを通して、スピード感があり過ぎる現代の中でもそんな感覚を失わずに共有していけたらなと思います。
『物を売る』という仕事はそうやって物を作った人達の時間と想いを預かっている事な気がします。より一層大切に商品をご紹介していきたいと思います。
余談。KINERGYは社長の君塚さんが大のAppleフリークで好きが高じて作られたとのこと。同じくアップル好きの私としても取り扱える事が嬉しい限りです。
取材風景。左側にいらっしゃるのが社長の君塚さん。削っているのは木地師の中塚さん。